みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。
今回は,今まで紹介してきた記憶に基づく食事評価法への批判に対する批判を紹介したいと思います.
では行きましょう!
記憶に基づく食事評価法批判のまとめ
こちらの記事は連載記事となっています.前回までの記事はこちらです:
- 食事ガイドラインはデタラメか?食事ガイドラインの作られ方を整理してみる
- 記憶に基づく食事評価法は正しくない?生理学的なもっともらしさの観点から
- “社会的望ましさ”が栄養素摂取量に与える影響について
- “偽の記憶”が栄養素摂取量に与える影響について
まだ前回までの記事を読まれていないという方は,そちらからお読みください.
これまでの連載では,記憶に基づく食事評価法の批判について紹介してきました.記憶に基づく食事評価法は,生理学的にもっともらしくないエネルギー摂取量を報告し,その原因として偽の記憶や社会的望ましさなどが影響していると説明してきました.しかし,記憶に基づく食事評価法は,現在の研究では多用されている手法でもありますし,もちろん数多くのテストに耐えている方法でもあります.
今回は,記憶に基づく食事評価法への批判に対する,批判(反論)を紹介したいと思います.
妥当性が確認されている
反論には多くの論点がありますが,最も大きなものはこれです.記憶に基づく食事評価法の妥当性が,“記憶に基づかない”方法で確認されているということです.
記憶に基づかない方法というのは,具体的にはリアルタイムでの食事の記録だったり,血液や尿などによる推定などの方法です.これらの方法と比較して,同じような結果が得られると,つまり記憶に基づく食事評価法から推定された栄養素摂取量が妥当であると言えるだろう,という理論ですね.
たとえば,リアルタイムでの食事記録とFFQとの栄養素摂取量を比較した研究では,多くの栄養素で強い相関を確認できたことを報告しています【1】Yuan, Changzheng, et al. "Validity of a dietary questionnaire assessed by comparison with multiple weighed dietary records or 24-hour recalls." American journal of epidemiology 185.7 (2017): 570-584。
たとえば,個人内変動を考慮したエネルギーの相関係数は0.31,エネルギー調整【2】エネルギー調整についてはこちらの記事を参照くださいされた脂質・たんぱく質・炭水化物は,それぞれ0.67・0.54・0.69の相関係数を報告しており,FFQの役割を果たすのに十分な妥当性を有しています.
これは24時間思い出し法でも同様で,バイオマーカーと24時間思い出し法で得られたエネルギー摂取量も十分に相関(r=0.53)していることも報告されています【3】Blanton, Cynthia A., et al. "The USDA Automated Multiple-Pass Method accurately estimates group total energy and nutrient intake." The Journal of nutrition 136.10 (2006): 2594-2599.。
また,Willetらは,自身の著書の中でバイオマーカーとFFQとの相関についてまとめています例えばβカロテンは0.28,ビタミンCは0.35,たんぱく質は0.31の相関係数で,それぞれ正の相関を示していることを報告しています【4】Willett, Walter. Nutritional epidemiology. Oxford University Press, 2012. table6-13.
ランク付けさえできれば良い?
健康と栄養との関連を調査する研究においては,多くの場合摂取量によるランク付けを目的として実施されます.つまり,摂取量の多い人と少ない人とをしっかりと順位付けすることを主目的として実施されることが多いのです.
そういった研究では,栄養素がどのような疾患を予防するのか,または発症させる原因となるのかに焦点が当てられます.たとば,飽和脂肪酸が多い人に冠状動脈疾患の発生率が高いとか,ビタミンAの摂取量が多い人にガンの発生率が低いとか,そういったことを知りたくて実施される場合が多いのです.
そのような場合,摂取量の絶対値はそれほど重要ではありません.多いか少ないか,この順番さえしっかりと把握できれば良いのです.こういった能力の高いFFQを順序化能力が高いとか,順序化妥当性があるとか呼んだりします.
なので,記憶に基づく食事評価法によって算出されたエネルギー摂取量が生理学的にもっともらしくなくとも,それによってしっかりとランク付けさえなされていれば,研究の目的は果たせる,ということになるのです.
まとめ
今回は,記憶に基づく食事評価法の批判に寄せられている批判について紹介しました.
数多くの研究が,記憶に基づく食事評価法が栄養疫学研究において有用であるとする証拠を提出しています.詳しく知りたい!という方はこちら【5】Willett, Walter C., Eric B. Rimm, and Frank B. Hu. "Reply to E Archer." The American journal of clinical nutrition 106.3 (2017): 950-951.の文献を参照してください.た
だし,今回の問題提起が,記憶に基づく食事評価法に寄せられている今までの懸念の一部でも強化することは事実です.次回は,食事評価法の構造的な問題を解決するための手法(主にテクノロジーを活用した方法)について概観したいと思います.
連載目次
- 食事ガイドラインはデタラメか?食事ガイドラインの作られ方を整理してみる
- 記憶に基づく食事評価法は正しくない?生理学的なもっともらしさの観点から
- “社会的望ましさ”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
- “偽の記憶”が栄養素摂取量に与える影響について【記憶に基づく食事評価法への批判】
- 記憶に基づく食事評価法の妥当性は確認されている現在のページ
- テクノロジーを用いた食事評価法について概観する【栄養疫学研究の展望】
参考文献
↑1 | Yuan, Changzheng, et al. "Validity of a dietary questionnaire assessed by comparison with multiple weighed dietary records or 24-hour recalls." American journal of epidemiology 185.7 (2017): 570-584 |
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↑2 | エネルギー調整についてはこちらの記事を参照ください |
↑3 | Blanton, Cynthia A., et al. "The USDA Automated Multiple-Pass Method accurately estimates group total energy and nutrient intake." The Journal of nutrition 136.10 (2006): 2594-2599. |
↑4 | Willett, Walter. Nutritional epidemiology. Oxford University Press, 2012. table6-13 |
↑5 | Willett, Walter C., Eric B. Rimm, and Frank B. Hu. "Reply to E Archer." The American journal of clinical nutrition 106.3 (2017): 950-951. |