食事摂取基準で基準がない栄養素はいくらでも食べてよいのか?糖類を例に紹介します

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

「日本人の食事摂取基準」は,食生活を送る上での基準となるために定められたものです.その基準には,ビタミンAやビタミンB1のように不足しないことを目指して定められたものもあれば,食塩のように過剰しないことを目指して定められたものもあります.

しかし,全ての栄養素が食事摂取基準に掲載されているわけではありません.なので,基準が定められていないからといって,無尽蔵に食べて良いわけでは当然ありませんし,もっと言えば特段の注意を払う必要がない,というわけでもありません.今回はその辺りについてちょっと触れたいと思います.

どのような栄養素が基準値策定の対象となる?

まず,食事摂取基準ではどのような栄養素が策定の対象となるのか紹介します.

基本的には,

  • 国民がその健康の保持増進を図る上で摂取することが望ましい熱量
  • その欠乏が国民の健康の保持増進に影響を与えている栄養素
  • その過剰な摂取が国民の健康の保持増進に影響を与えている栄養素

改変抜粋)「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

のような基準で選ばれます.

要は,エネルギーと,欠乏や過剰が問題になる栄養素ということになります.なので,欠乏に気をつけなければならないビタミンや,摂りすぎてはいけない食塩(ナトリウム)などがその対象となります.

一方,例えばカフェインなどはそのどちらにも該当せず,また栄養素でもありませんので,食事摂取基準では策定されません.

まぁざっとこのようなイメージで基準が定められていると思ってください.

食事摂取基準で基準値がない→欠乏や過剰が問題にならない栄養素?

先でも紹介しましたが,食事摂取基準では,欠乏や過剰が問題になる栄養素について策定することになっています.ということは,食事摂取基準で策定されていない→欠乏や過剰が問題にならない栄養素,という対偶も成り立つということになってしまいます.

うん.なんとなく納得してしまいそうですが,ちょっと注意が必用です.

策定の対象となったとしても,基準値が定められていない栄養素があります.策定の対象となる≒基準値が定められているなのです.

その代表が糖類です.過剰が問題になるために策定の対象となった栄養素ですが,基準値の策定は見送られています.これはなぜなのか.以下で少し詳しくみていきます.

糖類について

実際の食事摂取基準にはどのように書かれているか?

以下では,糖類について見ていきます.糖類は日本人の食事摂取基準(2015年版)でも,2020年版(まだ案の段階)でも,基準値が設定されていません.それぞれ,以下のようにしています:

2015年版:

なお、糖類については、日本人においてその摂取量の測定が困難であることから、基準の設定は見送った。

引用)「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」 報告書

2020年版:

単糖及び二糖類、すなわち糖類の過剰摂取が肥満や齲歯の原因となることは広く知られている。そのため、例えば WHO はその中の free sugar(遊離糖類:食品加工又は調理中に加えられる糖類)の摂取量に関する勧告を出しており、総エネルギーの 10%未満、望ましくは 5%未満に留めることを推奨している 28)。しかしながら我が国では、日本食品標準成分表に単糖や二糖類など糖の成分が収載されたのは比較的に最近であり、現在においても成分が与えられていない食品が多く、そのために、糖類の摂取量の把握がいまだ困難である。そのために今回はその基準の設定を見送ることにした。

引用)第6回「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会 資料

2015年版では糖類摂取量の測定が困難なこと,2020年版では糖類の過剰によるリスクを紹介しながら2015年版と同様にその摂取量の測定が困難なことを挙げています.

糖類の研究は難しい

なぜ,こと糖類に関しては研究が難しいのか.これは,食品成分表が大きく関わる問題だったりします.

現在使われている「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」では,いくつかの食品で炭水化物の詳しい組成が掲載されています.これは炭水化物成分表として別冊になっています.それには842食品が掲載されています.食品成分表全体では2191食品がありますが,その半分以下でしか炭水化物の成分値がわかっていないのです.

ちなみに,それ以前の場合,つまり食品成分表2010年版では,そもそも炭水化物成分表はありませんでした。それを考えると,飛躍的な発展と捉えることもできます.

栄養素摂取量と健康との関連を検討する際,基本的には栄養素摂取量をしっかりと調査・評価する必要があります,その際に食品成分表を用いて計算します.食品成分表に糖類について詳しく載っていないと,そもそも摂取量が把握できない,ということになってしまうのです.

そのため,そもそも研究が難しく,エビデンスとなりうる研究が少ない→基準値が設定されていないとなります.なので,糖類の過剰摂取が問題でない,ということでは絶対にありません.この辺りについては,食事摂取基準の基準値だけでなく,文章もしっかりと読んでいかなければならないのですね.

まとめ

以上で見たように,食事摂取基準では糖類の摂取量が定められていません.しかしそれは決して,糖類摂取量の過剰が問題にならないから,というわけではありません.そもそも研究そのものが難しく,基準値を設定するだけの根拠が蓄積されていないということなのです.

食事摂取基準では,基準の値のみが独り歩きすることが懸念されます.しかし,その裏にはこのような苦悩もあったりします.数値だけを見るのではなく,しっかりとこのような背景も知っておきたいですね.

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