みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。
「過小申告」は人の栄養素摂取量を解釈する際に重要な問題の1つです。栄養素摂取量の把握は,多くの場合で自己申告による食事データの解析によって行われるため,それに伴う申告誤差が発生することが知られています。そして,その代表が過小申告(under-reporting)です。今回は,日本人成人におけるエネルギー摂取量の過小申告について,その存在率と特徴を記述した研究を紹介します。
研究の概要
要約
- 国民健康栄養調査の結果を利用して,エネルギー摂取量と推定エネルギー必要量の一致率から誤申告者を特定した
- ほぼすべての被験者 (92.8%以上 )がもっともらしい申告者で,過小申告者は6.3%以下だった
- 日本人成人の平均的なエネルギー摂取量はもっともらしい(plausible)が,特定のサブグループ(肥満者など)では注意が必要である
方法
本研究では国民健康・栄養調査の結果を利用しています。エネルギー摂取量(EI)は,案文比率を活用した食事記録法によって収集された食事データより計算されました。
なお,エネルギー摂取量の基準として推定エネルギー必要量(EER)が利用されています。EERは,基礎代謝量(BMR)と身体活動レベル(PAL)から推定されています。BMRの推定には,DRIsにも掲載されている基礎代謝基準値と,Schofield式の2つを利用し,それぞれで検討しています。詳細な身体活動に関するデータは国民健康・栄養調査では収集されていませんので,エネルギー摂取量の過小申告者を特定するために慣習的に利用されているGoldbergカットオフ値の1.55が使用されました。
EIとEERおよびBMRの一致率によって,過小申告者・もっともらしい申告者・過大申告者の3つに分類しています。具体的な分類基準は下記のようになっています:
- ~0.59→過小申告者
- 0.59~1.71→もっともらしい申告者
- 1.71~→過大申告者
- ~0.87→過小申告者
- 0.87~2.75→もっともらしい申告者
- 2.75~→過大申告者
結果
過小申告者等の割合は,EI:EERおよびEI:BMRの主に2つの側面から推測されました。その結果をまとめたのが下記となります:
過小申告者 | 6.3%以下 |
もっともらしい申告者 | 92.8%以上 |
過大申告者 | 2.0%以下 |
また本研究では対象者の特性ごとに検討し,過小申告に影響する要因についても報告しています。下記のようになっています:
過小申告 | ・年齢が若い ・肥満,過体重(BMI25以上) ・喫煙している ・飲酒しない ・単身世帯 |
過大申告 | ・女性 ・正常体重 ・単身世帯 |
考察と感想
本研究の結果は私にとっては意外なものでした。深刻な問題と考えられている過小申告が,「特定のサブグループ以外では問題とならない」と読めなくもない結論が出されていたからです。意外な結果ではありますが,食事データの信頼性が確保されるという意味では,歓迎したくなる結果ではあります。
本研究で気になる点は,PALを1.55で計算している点です。これはエネルギー摂取量の過少申告者を特定するために慣習的に利用されているGoldbergのカットオフ値であり,他の多くの国での研究でもこの値が使用されています。しかし1.55は日本人の身体活動を正確に反映していない可能性があると感じます。日本人を対象に二重標識水法によってエネルギー消費量を測定した研究では,PALの平均値を1.72だったと報告しています。加えて,本研究においても,PALを1.75で分析しなおした場合では,Ei:EERにおいて10.5%の過小申告者が特定されたことを報告しています。これらのことから,過小申告者の割合はやや多めに見積もる方が望ましそうで,約10%と考えておくと安全そうに個人的には感じています。
まとめ
今回は日本人成人におけるエネルギーの「過小申告」についての文献を紹介しました。
92.8%以上が適正報告者であり,過小申告者は6.3%以下であることが示されました。過小申告者はもう少し多めに見積もるべきな気はしますが,それでも国民健康・栄養調査水準でしっかりと調査することで,ある程度妥当なエネルギー摂取量を推定できることが示唆されました。
過小申告に影響する要因としては,若いこと・飲酒しないこと・喫煙していること・単身世帯であることが関係しています。これらのサブルグループにおけるエネルギー摂取量を解釈する際には注意が必要でしょう。