みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。
今回はExcelを用いてエネルギー調整を行う方法を紹介します。栄養素摂取量の解釈には,エネルギー摂取量の調整が欠かせません。以下でその方法を紹介していきます。
なぜエネルギー調整をしなければならないのか?
はじめに,なぜエネルギー調整を行う必要があるのかを簡単に解説します。
エネルギー摂取量は,男性である・体格が大きい・活動量が多い人で高くなりがちです。年齢的に若い・成長期である人も同様でしょう。加えて,エネルギー摂取量は三大栄養素やビタミン,ミネラルの摂取量とも比例します。三大栄養素は当然ですが,全体的な食事量が多い傾向にありますので,ビタミンやミネラルも必然的に多くなる傾向にあります。
すなわち,エネルギー摂取量は,性別や年齢,体格,運動量,多くの栄養素摂取量に直接的・間接的に影響を与えます。栄養疫学研究においては,これらの要素を無視できません。たとえば調査結果にて,飽和脂肪酸の摂取量が増えると,脳血管障害が増えるという結果が得られたとしましょう。エネルギー摂取量を調整していないと,エネルギー摂取量が多いから脳血管障害が増えたという可能性や,体格の大きい人に脳血管障害が多いのかもしれないという可能性を捨てられなくなります。
そのため栄養素等摂取量との関係をみる研究においては,エネルギー調整は必須だと言えるでしょう。
密度法
密度法とは,栄養素摂取量をエネルギー摂取量で割る方法です。主に下記の3パターンがあります:
- PFCバランス(%E)で示す
- 1,000(kcal)あたりの栄養素摂取量で示す
- 推定エネルギー必要量(kcal)あたりの栄養素量で示す
1:PFCバランス(%E)で示す
たんぱく質や炭水化物などのエネルギー産生栄養素は,PFCバランス(%)で示します。式は下記のようになります:
具体的にたんぱく質で計算してみます:
例)たんぱく質摂取量120(g),エネルギー摂取量2,000(kcal)の場合:
エネルギー調整値(%) = 120(g) × 4 ÷ 2,000 × 100
エネルギー調整値(%) = 24
Excelでは下記のようにすることで計算できます:
2:1,000(kcal)あたりの栄養素摂取量で示す
ビタミンやミネラルなどのエネルギーを産生しない栄養素は,エネルギーあたりの摂取量(一般的に1,000(kcal)あたり)で示されます。式は下記になります:
具体的にレチノール(ビタミンA)で計算してみます:
例)レチノール300(μg),エネルギー摂取量1,500(kcal)の場合:
エネルギー調整値(μg/1000kcal) = 300(μg) ÷ 1,500(kcal) × 1000
エネルギー調整値(μg/1000kcal) = 200
Excelでは下記のようにすることで計算できます:
3:推定エネルギー必要量(kcal)あたりで示す
栄養素摂取量を,摂取したエネルギー1,000(kcal)あたりで示すと「1日あたりに必要な栄養素摂取量の過不足等の評価」に使うのは困難です。そこで,推定エネルギー必要量(kcal)あたりで示す方法も使われます。
これの詳細については下記の記事も参考にしてください:
食事評価には申告に伴う誤差がつきものですが,体重変化が大きくない場合はエネルギー摂取量 = エネルギー必要量と仮定できるため,この方法を使うことで申告に伴う誤差を(ある程度は)補正することができます。
式は下記になります:
具体的にレチノール(ビタミンA)で計算してみます:
例)レチノール300(μg),エネルギー摂取量1,500(kcal),
推定エネルギー必要量2000(kcal)の場合:
エネルギー調整値(μg/kcal) = 300(μg) ÷ 1,500(kcal) × 2000(kcal)
エネルギー調整値(μg/kcal) = 400
Excelでは下記のようにすることで計算できます:
なお,推定エネルギー必要量については,下記の記事も参考にしてください:
残差法
残差法は,総エネルギー摂取量の影響を完全に取り除ける方法です。実は,密度法では総エネルギー摂取量の影響を完全に取り除けません(少し弱くはなりますが)。それに対して,残差法では完全に取り除くことができるのです。
計算式は下記になります:
残差とは,個人における実際の栄養素摂取量と,回帰式から予測される予測値との差のことを指します。プラスの値もマイナスの値も取りえます。下記の式で算出できます:
予測値は回帰式から算出します。栄養素摂取量を従属変数,エネルギー摂取量を独立変数とし,回帰分析を行うことで得られます。下記で,実際にExcelを使用しながら残差法によるエネルギー調整をやってみましょう:
Excelで残差法
まず,以下からサンプルファイルをダウンロードしてください。以降これを使って説明していきます。
- STEP.1回帰式を作る
残差を求めるため,たんぱく質摂取量を従属変数に,エネルギー摂取量を独立変数とした回帰式を作成します。
そのために,回帰式の傾きと切片を求めていきます。傾きはSLOPE関数,切片はINTERCEPT関数で求められます。それぞれのセルに以下の式を入力しましょう:
- セルH1(傾き):=SLOPE(B2:B21,A2:A21)
- セルH2(切片):=INTERCEPT(B2:B21,A2:A21)
- STEP.2回帰式から予測値を算出する
STEP.1で作成した回帰式を使って栄養素摂取量の予測値を算出していきます。
セルC2に下記の式を入力し,下方向にオートフィルでコピーしてください:
- セルC2:=$H$1*$A2+$H$2
- セルC3以降:セルC2の式をコピー(オートフィルで)
- STEP.3残差を算出する
残差は実測値から予測値を差し引いた値です:
- セルD2:=B2-C2
- セルD3以降:セルD2の式をコピー(オートフィルで)
- STEP.4残差に栄養素摂取量の平均値を足す
残差はマイナスの値もとりうるため,そのままの値では解釈が困難です。そこで,集団の栄養素摂取量の平均値を足すことで結果をわかりやすくします:
- セルE2:=AVERAGE($B$2:$B$21)+D2
- セルE3以降:セルE2の式をコピー(オートフィルで)
まとめ
今回は,栄養疫学で必要となるエネルギー調整について,密度法による方法と,残差法による方法の2つをお示ししました。
2つの方法は,その使い方や解釈に違いがあります。それらをしっかりと理解した上で使用するようにしてください。
残差法を簡単に行えるExcelシートを公開しましたので,興味のある方は参照してみてください。