みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。
すっかり時宜を逸してしまいましたが,『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』(以下,成分表2020)における「食物繊維総量」について書いておきたいと思います。
成分表2020では,食物繊維について新たな分析法が追加されました。エネルギー値の変更という大きなトピックの影に隠れがちですが,重要なトピックであることは間違いありません。
玄米の方が食物繊維が少ない!?
玄米は,一般的にビタミンやミネラル,食物繊維等の栄養素が多く含まれていることから,精白米と比べて栄養価が優れているとされる場合が多いようです。
そこで,成分表2020を参照し,玄米の方がどのくらい食物繊維が多く含まれているのか確認してみることにします。すると下記のようになっていました:
可食部100gあたりの「食物繊維総量」(成分表2020)
- 01085 こめ 玄米:1.4g
- 01088 こめ 精白米:1.5g
驚くことに,玄米の方が精白米よりも食物繊維総量が少なかったのです。実は精白米の方が食物繊維が多く含まれていたのでしょうか。いえ,上記の数値だけで,そう結論づけるのは誤りです。
実は成分表2020では,食物繊維総量の分析方法が食品によって異なっており,そのため上記のような理解しづらい現象が発生しています。
成分表2020への改訂に際し(正確には追補2018年から),食物繊維総量の定量について,新しい分析法が取り入れられました。とはいえ,すべての食品が新しい分析法で分析されているわけではありません。そのため,たとえ類似の食品であっても,分析法が異なるケースがあるのです。
成分表2020における食物繊維の分析法
成分表2020での「食物繊維総量」においては,下記の3種類の分析法による成分値が混在して使用されています:
- プロスキー法
- プロスキー変法
- AOAC.2011.25法
1と2は従来から引き続き使用されている分析法ですが,3は「追補2018」から使用が開始された比較的新しい分析法です。
3は,従来法では分析できなかった「低分子量水溶性食物繊維」や,正確に定量できていない可能性があった「難消化性デンプン」の分析に適用できる分析法です(R)。そのため,従来法による分析値と比べて,高く出るようになります。
実際に,日本で多く食べられている主食のご飯(01088)においては,2による分析法では0.3g しかなかった食物繊維が,3による分析法では1.5g になっています。食品によっては,分析方法の影響がとても大きいことがわかるかと思います。
特に,「低分子量水溶性食物繊維」(難消化性オリゴ糖)は,従来法では一切測定されていなった画分ですので,これが多く含まれる食品では,大きく値が変動する可能性があります。「難消化性デンプン」についても,似たことがいえるかと思います。
具体的には,でんぷん量の多い穀類や芋類等は影響が(比較的)大きいと推測されます。逆に,それらを含まない食品(肉類や魚類等)については,大きな変更がないと予想できます。
成分表2020における食物繊維総量の表示
では,成分表2020を使って食物繊維総量を確認・比較するためにはどうすれば良いのでしょうか。下記で紹介します。
「本表」では備考欄を必ず確認する!
上記で見たように,食物繊維総量は,分析法によって数値が大きく違ってきてしまいます。そのため,食物繊維総量の値を見る際には,どの分析法によるものなのかを把握しておくことがとても重要です。
しかしながら,成分表2020では,分析法が食品によって異なるにも関わらず,本表においては,まとめて1つの列(食物繊維総量)に混在した形で記載されてしまっています。
すなわち,単に「食物繊維総量」と分析値が記載されていても,Aという食品は従来方法による分析値が,Bという食品は新しい方法による分析値が記載されている場合があるのです。
もちろん,採用された分析法を見分けることは可能です。新しい分析法を用いた食品では,「食物繊維:AOAC2011.25法」と備考欄に記載があります。食物繊維総量を知りたい場合は,この記載を見逃さないようにしましょう。
できることなら「炭水化物成分表」を確認する
個々の食品について食物繊維総量を比較したい場合,本表だけでも可能な場合がありますが,できることなら「炭水化物成分表」を確認したいところです。
別表に該当する炭水化物成分表では,従来法と新法による分析値が別々の列にわけて記載されています。
比較したい食品のすべてで新法による分析値が掲載されていたらラッキーです。それらの値を使用して比較しましょう。
しかし,比較したい食品のうち,1つでも新法による分析値が載っていない(未測定である)場合には,従来の方法による分析値で比較するのがよいでしょう。
とはいえ,まだまだ「過渡期」なので…
とはいえ,やや分かりづらくあります。仕方ないことではありますが。
分析法によって値が大きく異なる等の事情を知らない方は,上記のように分析法をそろえて比較する等をしない場合もあるでしょう。
加えて,Web上で食品の成分値を検索できる「食品成分データベース」では,どの食品がどの分析法を使用しているかを記載せずに,食物繊維総量を表示していますので不要な誤解を助長する可能性もあると感じます。
現在は,異なる分析法が混在する過渡期にあたります。より一層の注意が必要であると言えるでしょう。
まとめ
今回は,「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」における食物繊維総量について,概要を整理してみました。
まとめると,下記のようになります:
- 食物繊維に新しい分析法(AOAC.2011.25法)が取り入れられた
- 新しい分析法は従来の分析法よりも高値を示しやすいこと
- にもかかわらず,類似の食品であっても異なる分析法が採用されているケースがある
次回は,この「食物繊維総量」を食事調査等で使用する場合にどのような点に気をつけなければならないのか考えてみたいと思います。