食事評価では,申告誤差の存在により結果の解釈が難しくなります。それを緩和する方法の1つに推定エネルギー必要量を用いたエネルギー調整があります。今回はこの方法について紹介します。
食事調査の申告誤差について
栄養素摂取量は,対象者に実際に食べた食事を申告してもらうことで把握していきます。食べたものをリアルタイムで紙に記録してもらう場合もあれば,面接等により聞き取りを行う場合もあります。つまり,何らかの方法で食べた食事を申告してもらうことで,そこから栄養素摂取量を算出することになります。
この場合に問題となるのが申告誤差です。記録忘れや記憶違いなどによって生じることが知られています。当たり前の話ですが,申告誤差が生じている栄養素摂取量では,正確に評価できません。
そこで,エネルギー調整という方法が用いられます。食べ物には,多かれ少なかれエネルギーが含まれていますので,エネルギー摂取量と栄養素摂取量はある程度相関します。また,エネルギー摂取量は,大きく体重が変化しない場合は,エネルギー必要量と理論的には同じになるはずです。
つまり,必要なエネルギー量を摂取した際に期待される栄養素摂取量を算出できると,それが実際に摂取していると考えられる栄養素摂取量となるわけです。
推定エネルギー必要量を使用したエネルギー調整
方法
推定エネルギー必要量を使用してエネルギー調整を行う場合には,まず推定エネルギー必要量を算出する必要があります。一般成人の場合は下記のように計算します:
詳細は次の記事も参照してください:「推定エネルギー必要量の算出方法」
推定エネルギー必要量の算出後は,下記の計算式によってエネルギー調整された栄養素摂取量を算出できます:
下記にレチノールの場合の計算例を掲載してみますので,参考にしてください:
例)レチノール300(μg),エネルギー摂取量1,500(kcal),推定エネルギー必要量2000(kcal)の場合:
エネルギー調整値(μg/kcal) = 300(μg) ÷ 1,500(kcal) × 2000(kcal)
エネルギー調整値(μg/kcal) = 400
注意点
上記の方法により,推定エネルギー必要量を用いたエネルギー調整を行うことができました。しかしながら,この方法では下記のような事項を前提としており,これをある程度でも満たすことが難しい場合は,適用に際して注意が必要です:
- 推定エネルギー必要量が正しい:推定エネルギー必要量で調整するため,推定エネルギー必要量が正しい前提となっています。上で紹介したような推定式を使用する場合は,どうしても個人差による誤差が含まれます。
- 推定エネルギー必要量を摂取している:推定エネルギー必要量で調整するため,推定エネルギー必要量を摂取していることを前提としています。つまり,これより多く摂取していることや,少なく摂取していることを想定していません。
- エネルギー摂取量によって栄養素の密度が変わらない:食品に含まれる栄養素量は,エネルギーと必ずしも比例していません。またこの関係は,栄養素によっても異なります。1,500kcalとった時の食事と3,000kcal摂った時の食事では,質自体が異なることは想像できるかと思います。そのため特に,エネルギー摂取量と必要量とが著しく異なる場合では適用に注意が必要でしょう。
まとめ
今回は推定エネルギー必要量を用いたエネルギー調整の方法について紹介しました。
注意しなければならない点はありますが,栄養素摂取量から何らかの栄養評価を行う際に活用していきたい方法ですね。
なお,その他の方法によるエネルギー調整について知りたい方は,次の記事もご確認ください:「密度法と残差法によるエネルギー調整の方法」