「成分表2020」で算出された食物繊維摂取量の解釈について私見をまとめました

前回の記事では,「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(以下,成分表2020)の「食物繊維総量」について紹介しました。

主に下記のような内容でした:

  • 食物繊維の定量に新しい分析法(AOAC.2011.25法)が取り入れられたこと
  • 新しい分析法は従来の分析法よりも高値を示しやすいこと
  • にもかかわらず,類似の食品でも異なる分析法が採用されている場合があること

今回は,前回の内容を踏まえた上で,成分表2020で算出された食物繊維総量の摂取量の解釈について,私見をまとめてみたいと思います。

使用する成分表を2015→2020に変えた場合

食事調査等において,使用する成分表を2015から2020に変更する場合,結果の解釈に注意が必要です。調査に継続性がある場合はなおさらです。

まったく同じ食事内容でも,成分表2020で再計算した場合には,食物繊維総量が増える可能性が高いと思われます。したがって,例えば成分表2015で行った調査結果と,成分表2020で行った調査結果とを直接比較するのはかなり危険です(これは食物繊維総量に限った話ではありません)。

例をあげると,国民健康・栄養調査では,使用する成分表が更新されていきます。なお調査に使用された成分表は,調査の概要(平成30年令和元年)からそれぞれ確認することができます。

たとえば,平成30年報告では,成分表2017追補まで反映された成分表が使用されていましたが,令和元年では成分表2018追補まで反映された成分表が使用されています。

新たな分析法(AOAC.2011.25法)が食品成分表で取り入れられたのは,正確には2018追補からでした。そのため,令和元年の調査では,新しい分析法による食物繊維総量の値が反映されています。

それが要因かは定かではありませんが,食物繊維総量(全年齢の平均値)は,平成30年の14.4gから,令和元年には18.4gに大きく増加しています平成30年, 令和元年)。たった1年でここまで日本人の食生活が変化したとは考えにくい部分があります。この増加に使用している成分表が寄与している割合は高いと考えた方が妥当そうです。

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で評価する場合

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(以下,摂取基準2020)では,食物繊維摂取の「目標量」を定めています。男性21g/日以上,女性18g/日以上です(18歳~29歳の場合)。

先に,「成分表2020」では,「成分表2015」と比較して,食物繊維摂取量で高値が示されやすいと書きました。これはつまり,「成分表2020」を使用することで,目標量を満たしやすくなることを示しています。

この考え方は,正しいでしょうか。残念ながら,正しくないというのが私の考えです。

食物繊維の目標量は,従来法による分析値を元にした研究レビューと,従来法の成分値が掲載された成分表による食事調査の結果を勘案して設定されています。具体的には,摂取基準2020年には下記のように記載されています:

アメリカ・カナダの食事摂取基準では、これらの研究論文を中心にレビューを行い、14g/1,000kcal を目安量としている。
(中略)
アメリカ・カナダの食事摂取基準では、上記の限界はあるものの、この基準を参考にすれば、成人では理想的には24 g/日以上、できれば 14 g/1,000 kcal 以上を目標量とすべきであると考えられる。しかしながら、平成 28 年国民健康・栄養調査に基づく日本人の食物繊維摂取量の中央値は、全ての年齢区分でこれらよりかなり少ない(表 2)。そのために、これらの値を目標量として掲げてもその実施可能性は低いと言わざるを得ない。

厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書

上記の「14g/1,000kcal」という値は,(おそらく)従来法による分析値を採用した成分表で評価された結果に基づくものと思われます。なので,新法による分析値から得られた摂取量をこの基準で評価するのは「甘め」になります。加えて,摂取基準2020の目標量は,現状の摂取実態を勘案し,より低い値を目標量として設定しています。つまり,摂取基準2020の目標量を,新法による分析値から得られた摂取量と比較するのは,やや甘めの評価になる考えた方が妥当そうです。

具体的に成分表2020を使って評価する場合,食物繊維の目標量は何グラムとすべきか?については,まだ答えがでていないと思います。

しかしながら,「成分表2020で計算したらギリギリ目標量を満たしていた」→「これ以上,食物繊維の摂取を増やさなくてもよい」という考えは推奨できないと思います。もう少し上の14g/1,000kcalを目指したいところですし,本当はそれ以上を目指すべきなのかもしれません。他の栄養素との優先度を考慮しつつ,より多い摂取量を目指したいところですね。

まとめ

今回は成分表2020で算出した食物繊維摂取量の解釈について,下記の2つについて紹介しました:

  • 使用する成分表を2015→2020に変えた場合
  • 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で評価する場合

成分表2020に移行し,現在はその過渡期となっています。いろいろと整合しない部分が生じてきますが,その辺りを理解した上でしっかりと活用していきたいですね。

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