「食品成分表 2020 年版(八訂)」 でエネルギー値はどう変わるのか?【ざっくり解説します】

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

日本食品標準成分表 2020 年版(八訂)」では,5年に1度の大改訂ということもあり,多くの変更がなされました。その中でも特に大きな変更と考えられるのがエネルギー算出方法の変更です。これにより,栄養価計算等で特に重視されているエネルギー値が食品によっては大きく変動することとなります。

そこで今回は,エネルギー値がどのように変わるのか簡単にまとめてみたいと思います。

エネルギー値はどのように変わるか?

まずは,エネルギー値がどのように変わるか,ざっくりと理解しましょう。

端的に示すと,これまでの「修正Atwater係数」による算出から「組成成分ごとの換算係数」に変わります(下記参照)。

  • 2015年版
    これまで

    たんぱく質・脂質・炭水化物から「修正Atwater係数」で算出(一部食品は個別に係数を設定,きのこ類・藻類等はAtwater係数により算出したエネルギー値の0.5倍値としてきた)

    例:たんぱく質(g) x 4 + 脂質(g) x 9 + 炭水化物(g) x 4 + (アルコール(g) x 7等)

  • 2020年版
    これから

    アミノ酸・脂肪酸・単糖類・多糖類から「組成成分ごとの換算係数」で算出

    例:アミノ酸組成によるたんぱく質(g) x 4 + 脂肪酸のトリアシルグリセロール当量(g) x 9 + 利用可能炭水化物(単糖当量)(g) x 3.75 + 食物繊維総量(g) x 2 + ソルビトール(g) × 2.6 + マンニトール(g) × 1.6 + マルチトール(g) × 2.1 + 還元水あめ(g) × 3 + その他の糖アルコール(g) × 2.4 + 酢酸(g) × 3.5 + 乳酸(g) × 3.6 +クエン酸(g) × 2.5 + リンゴ酸(g) × 2.4 + その他の有機酸(g) × 3 + アルコール(g) × 7

これにより,特にきのこ類や藻類等については,エネルギー値が大きく変化することが予想されます。これらの食品は,Atwater係数から算出されたエネルギー値に0.5倍を乗じた値を暫定的に採用してきました。しかし2020年版からは,食物繊維に個別の換算係数が用意されるためエネルギー値は増加する傾向となることが予想されます。

なぜエネルギー値の算出方法を変更する必要があるのか?

これまでの食品標準成分表では,修正Atwater法によってエネルギー値が算出されてきました。なぜそれを変更する必要があるのでしょうか。下記に主な理由を示します:

  • 消化性試験の適用の困難さ:これまでは,人での消化性試験等により食品個別のエネルギー換算係数を算出できたものについては,それを利用してきました。しかし試験を実施するに際して,個人差の存在やコスト面の課題もあり,すべての食品について試験を行うことも難しい状況でした。そのため,これら試験を実施できていない食品ではAtwater係数を基本的なエネルギー換算係数として採用するしかない状況でした。
  • きのこ類と藻類のエネルギー値:きのこ類や藻類等については難消化性有機物が多く,また人での消化性試験についても個人差が大きいことから,個別のエネルギー換算係数を算出するのが難しい状況でした。以前の成分表ではエネルギー値の収載がなかったほどです。現在はAtwater係数で算出された値に0.5を乗じた値を掲載していますが,これはあくまでも暫定的なものでした。
  • 炭水化物への一律のエネルギー換算係数の適用:差し引き法により算出された炭水化物には,糖質の他に食物繊維や微量の有機物が含まれます。これらの消化・吸収による利用のされ方(エネルギー産生量)は当然異なりますが,これまでは個別のエネルギー換算係数が求められていない食品については,炭水化物の総量として一律のエネルギー換算係数が乗じられてきました。

エネルギー値はどの程度変化するのか?

実際にエネルギー換算係数が変わった場合,これまでの成分表で算出してきた値とどの程度変化するのかは,把握しておきたいところです。下記に,平成26年度の国民健康・栄養調査の調査データを元に,平均的な食事で1900kcalを摂取した場合に,エネルギー値の変動の多い食品をまとめた表を掲載します:

転載) 第 18 回食品成分委員会:組成に基づく成分値を基礎としたエネルギー値の算出について

たとえば,今まで「1088 こめ [水稲めし] 精白米、うるち米 」を470.2kcal摂取していた人は,それが434.3kcalと再計算される形となります。その差は36.0kcalとなります。

まとめ

今回は,「日本食品標準成分表 2020 年版(八訂)」でなされたエネルギー算出方法の変更についてザックリと解説しました。献立作成等でも重視されているエネルギーについての変更ということもあり,少なからず影響がありそうです。

しかし,実際に摂取・利用されるエネルギー値に近づけるための変更のため,当然ながら歓迎すべきものです。どのように再計算されるのか,注視していきましょう。

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