みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。
「あなたはなんのために食事をしていますか?」と聞かれたら,なんて答えますか?
私の場合は「空腹を満たすため」と答えるかもしれません。でも,「美味しいものを食べるため」っていうのも少しあります。これについては,人によって大きく異ることかと思います。私はいわゆるグルメではないので,その類の方からすると「美味しいもの」に関する価値観は大きくズレていることでしょう。
今回は,そんな食に関する価値観についての話です。
健康だけのために食べているのか?
「健康のためにバターは控えるべき?」 とか,「卵は1日何個までなら食べて良い?」などのトピックは,食と健康との関連を語る際に,頻繁に取り上げられます。テレビ番組はもちろん,Web記事においても,食の健康面に関する情報の需要は高まっているように感じます。
こういったトピックに関して,ある意味で雑な記事だと健康への悪影響だけを取り上げたりします。 たとえば「バターに含まれる飽和脂肪酸は,コレストロールを上げる働きがあるため,食べてはいけない!」という風に,量の概念を無視して単純に白黒つける場合があります。また単純なエビデンスのみで説得しようとすると,「アメリカの研究では,卵を1日1個でも摂取すると,病気のリスクが上昇するから,卵は食べてはいけない」という風に,単一の研究の結果によって結論づけることになるかと思います。
それに対して,きちんとした記事だともっと多くの価値観を導入しています。 「卵に関する研究は色々あって,結論は一致していないが,概ね1日1個くらいだと問題なさそう。卵は安価で,かつ栄養価も高いから,健康への悪い面だけでなく良い面も見たい。あと美味しい卵料理も楽しみたいですね」っていう感じになります。つまり,健康への悪影響だけを捉えるのではなく,もっと様々な要素(健康への良い面,味,値段など)を勘案しつつ,総合的に見た場合の意見を提供しています。近年の流行り?としては,サステナビリティ(sustainability)なんかの概念を取り入れる場合もあるように感じます。
もし私たちが「健康だけのために食べている」のであれば,健康への良い面と悪い面との収支“ のみ ”を取り上げれば済んでしまう話です。「健康に関する悪い面が,良い面よりも大きいので,控えましょう」。これだけでOKです。しかし,私たちが食事をする目的は,それだけではありません。このことは,頭では理解できていたとしても,健康面の情報を伝える際には,忘れがちになる事柄です。
食に関する多様な価値観
かなり昔,まだ充分な食文化が成立していなかったような時代だと,まさにその日を生き延びるために食事をしていたかと思います。飢えをしのぐため・その日を生きるのに必要な栄養を摂取していました。このような時代においては,食事をする目的は,まさに 「生きるため」 です。
しかし,飢えを気にする必要のない現代においては, 「美味しいものを食べるため」 に食事をする,という方も多いと思います。ちょっと違う側面から見ると, 「ストレスを解消するため」 に食べるという方もいるかもしれません。また,正月におせちを食べる・節分に恵方巻きなどの行事食を食べる際には,それは 「食文化の継承のため」 に食べているという方もいるかもしれません。
その他には,食事のスタイルとしてベジタリアンを選択する方もいます。そのような方々は,それにより宗教や倫理的な態度を表明しているとも言えますので,食事は 「信仰の一貫として」や「思想の実践のため」 と言えるかもしれません。
このように,食に関する価値観は多様になってきています。 ベジタリアンの方に,菜食によって生じる健康への悪影響を説明することは,ある意味では必要なことだと思います。充分な栄養管理を伴わない菜食は,充分な食物が提供できる現代において無用な栄養障害をもたらす可能性があるからです。しかし,完全に自分で判断できる大人が,自らの生き方・思想としてベジタリアンを選択したのであれば,それを変更させるのは,たとえ健康面に影響が及んでいたとしても簡単なことではありませんし,正しいこととも,私には思えません。健康に関する価値観だけを押し付けることは,明らかに間違っています。
多様な価値観の存在を認識する
私は栄養士ですので,食に関しては,どうしても栄養面から見た健康への影響についてのみ語りがちになります(もちろん,私に美食を語ることを望んでいる方は少ないでしょうが)。
しかし,食品や食事には,栄養面だけを見た場合でも,良い面と悪い面とがあります。加えてそれ以外にも,様々な価値観に照合されるのが「食」です。つまり私たちは,健康のためだけに食べるのでなく,その他の価値観に照らされた思想の一部としても,食行動を行います。要するに,食事をする目的は,その配分を含めて人によって大きく異なるのです。このような食に関する価値観は,これからもっと多様化していくことが想像されます。
栄養士である私は,そのことをしっかりと認識しておかなければならない,と感じました。私の目に入る範囲には,「健康に悪いから」という理由で,一部の食品や食行動を簡単に排除してしまう人が存在します。そういった行動は,食の価値観の多様性を認めるという観点からは離れた行動です。 多様性のすべてを受け入れることは難しいことですが,多様な価値観が「存在する」ということを理解し,できることならばそれらに配慮した情報発信としたいなと,考えています。