【わかりやすく解説】プラセボ効果について【効くなら良いでもない】

みなさん,こんにちは。
シンノユウキ(shinno1993)です。

今回は「ヘルスリテラシーを身に着けよう」の連載の第2回で,「プラセボ効果」について紹介します。「効果があった!」と感じていることは,もしかしたらプラセボ効果かもしれません。

前回の記事はこちら!

プラセボとは?

プラセボ:偽薬

プラセボ( プラシーボ ):placeb という言葉は,ラテン語に由来しており,「私を喜ばせる」という意味があります。日本語では,偽薬と呼ばれたりします。治療をするという行為以外には,なんら生物学的な影響を及ぼさないものを指しています。

生物学的な影響を及ぼさない

プラセボは,一般的に薬剤の形として用いられるため,それに似せるためにブドウ糖が固められただけのものが用いられたりします。ラムネ菓子のようなものをイメージしていただくとわかりやすいでしょうか。ただし,プラセボは「治療行為以外に生物学的な影響を及ぼさないもの」なので,なにも薬に限ったものではありません。鍼灸治療においては,効果を及ぼさないと考えられる場所に針を打つこともそれに該当します。もっと言えば,手術においても,シャム手術と呼ばれる麻酔と皮膚の切開だけを行う見せかけの手術が行われたりもします。

プラセボ利用に関する倫理的な問題

ただし,最近では臨床試験等でプラセボは利用されなくなっています。これは,人間を対象にする医学研究の倫理的原則である「ヘルシンキ宣言」にもとる場合があるからです。それには「医学研究の主な目的は新しい知識を得ることであるが、この目標は個々の被験者の権利および利益に優先することがあってはならない。」とあります。つまり,効くことが明らかである治療を適用せずに,根本的には効かないことがわかっているプラセボを利用することは,倫理的に許されないのです。ですので,新しい治療法を試す場合には旧来より用いられてきた標準的な治療を行うなどがなされています。

プラセボ効果とは?

なんら生物学的な影響を及ぼさないプラセボであっても,それを与えられる/与えることで,実際に効果を示すことがあります。それをプラセボ効果と言います。プラセボ効果が生じるメカニズムは明らかではありませんが,脳が調整している部分(痛みや疲労)については効果があるものと考えられています。

痛みを軽減する効果も

たとえば,2018年に Nature Communications に掲載された論文では,プラセボ効果を腰痛患者で調べています(R)。慢性的に腰痛に苦しんでいる人が,砂糖を固めただけの錠剤を薬として服用した場合に,鎮痛剤を摂取した場合と同様の効果があったことを報告しています。当然のことながら,砂糖を固めただけのものには,痛みを緩和するだけの効果はありません。しかし,それを服用することで,実際に鎮痛作用を有する鎮痛剤と同様の効果を得ることができたのです。

プラセボと知っていても効果がある

また,プラセボ効果は,実際にプラセボがプラセボだと知った上で服用しても効果があります。つまり,偽薬をそれと知った上で服用したとしても,本物の薬と遜色ない効果を得ることができるのです。実際に例を出してみましょう。プラセボ効果の解明に長年携わってきた,ハーバード大学のKaptchuk教授が行った研究が参考になります(R)。66人の片頭痛患者を対象にし,(1)通常の薬を服用,(2)「プラセボ」と書かれたプラセボを服用,(3)何も服用しない,の3つのグループに分け,それぞれで痛みの程度を比較しました。その結果,(2)のグループ,つまりプラセボと知っていながらプラセボを服用したグループでも,通常の薬を服用した(1)のグループと同程度の効果を得ることができたのです。

プラセボ効果を悪用した場合

このプラセボ効果,悪用することもできます。

わかりやすい例では,新薬の効果を良くみせるときに用いることもできるでしょう。プラセボ効果が生じるのであれば,新しく開発した薬にまったく薬効がなかったとしても,一時的に痛みなどは改善することが考えられます。極端なことを言うと,ただ砂糖を固めただけのものでも,新薬として通用するということになります(もちろん実際にはありえないですが)。

ですので,たとえば薬の効果を見極めたいのであれば,プラセボ効果の影響を除去した効果を明らかにしなければなりません。そのためには,実際の薬を服用するグループと,プラセボを服用するグループとの2つのグループを設け,その間で効果の差を見る必要があるのです。こうすることで,プラセボの効果を排除し,正確に薬の効果を見極めることができるのです。

効くなら良いのでは?に関する反論

さて,プラセボ効果についてですが,実際に効くのではそれで良いのでは?という議論もなされます。

反論①実際に治療するわけではない

プラセボを用いたとしても,それは根源的な治療にはなりません。これが「効くなら良いのでは?」に関する最も大きな反論となります。

先で「脳が調整している部分」については効果があると書きました。脳が調整している部分というのは,脳が知覚することで症状等が発生する事柄のことです。具体的には,痛みや疲労などです。これらは,つまり「思い込み」によって生じているといっても,言い過ぎではないかもしれません。なので,プラセボによってガンが消失するわけでもありませんし,血管に柔軟性が戻るわけでもないのです。

実際に治療できるわけではないので,効果があるならそれで良いのでは?といって済ませるわけにはいきません。もちろん,先に頭痛の例で示した自分自身へ投与するプラセボを妨げる理由にはなりませんが,それでもそれ以外(医師→患者など)へのプラセボの適応をおおっぴらに許容するわけにはいかないのです。

反論②標準的な治療でもプラセボ効果は生じている

何も,偽薬なければプラセボ効果が発揮されないわけではありません。当たり前過ぎて見過ごされているかもしれませんが,通常の治療で使われる薬を摂取したとしてもプラセボ効果は生じています。通常の薬の効果に加えてプラセボ効果による良い影響を受けることもできているのです。つまり,わざわざ効果のないプラセボを摂取する必要はなく,普通に効果が認められている薬を摂取すれば良いということになります。であれば,プラセボを認める必要性が無いことも理解できるでしょうか。

まとめ

今回は「ヘルスリテラシーを身に着けよう」の第2回としてプラセボ効果について紹介しました。今回紹介したように,ただ砂糖を固めただけのものであっても,プラセボ効果によって本物の薬と同じような効果を得ることができる場合があります。でも,だからといって先に書いたように,プラセボ効果“だけ”しか得られないような治療をすすんで受ける必要はありません。そのような治療に惑わされないようにしましょう。

次回は「因果の逆転」について紹介したいなと思っています。

連載目次

  1. 【わかりやすく解説】平均への回帰について【研究にも役立つ】
  2. 【わかりやすく解説】プラセボ効果について【効くなら良いでもない】現在のページ

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